ちょっと不思議で、ほっと心が柔らかくなるような小説をお探しではありませんか?
小説家の森見登美彦さんは、新潮社の日本ファンタジーノベル大賞という文学賞から飛び出した異質の作家です。
ファンタジーなので、私たちが見ている世界とは少し違う摩訶不思議な世界の物語。でも森見登美彦さんの作品は、私たちのいる世界にこっそりと実在しそうな、あたかにも毎日の生活のすぐ近くにあるように感じさせるお話しです。
注目すべきはその心くすぐる世界観だけではなく、古き良き文学から引っ張り出してきたような絶妙な言い回しや文体。好きな人には絶対癖になってしまうような語り口で、軽快にストーリーが進んでいきます。森見登美彦の世界は中毒になること間違いなし。
それでは、私が選んだおすすめの森見登美彦作品をご紹介していきましょう。
森見登美彦さんの小説でお勧め作品5選
おすすめ小説1:『夜は短し歩けよ乙女』
2017年に映画化もされた『夜は短し歩けよ乙女』。森見登美彦小説の初心者にはぜひここから始めていただきたいという鉄板の人気小説です。
森見作品にはよく登場する「へたれ大学生」が主人公の作品ですが、心をキュッとつかんでいく個性的な女子大生の視点と、2つの視点で書かれている小説ですから、男性の心も女性の心も奪っていくこと間違いなしです。
ヒロインの女性にへたれ大学生が恋い焦がれて追いかけていく恋物語なんですが、普通の恋愛小説ではありません。
奇妙な登場人物が登場人物たちが、摩訶不思議な京都の街へ私たちを迷い込ませます。
読んでいてクスクスっと笑ってしまうファンタジー。不思議な恋の物語です。
おすすめ小説2:『太陽の塔』
こちらは森見登美彦のデビュー作であり、日本ファンタジーノベル大賞の審査員をあっと驚かせた作品です。
実はこの小説、有名な『夜は短し歩けよ乙女』より前に書かれた『夜は短し歩けよ乙女』よりの後の物語。
主人公はストーカー!?と思わせるような、すれすれ、ギリギリの非常に際どい問題作と言っていいでしょう。
一人称なので主人公の視点で読み進めていくのですが、彼が大真面目に語っていることを読者が客観的に見て、がんがんツッコミたくなるような二元的な読者視点を置く手法が素晴らしく、高く評価された作品です。
非常に独特です。しかも主人公はストーカーです。語り口が内田百閒や夏目漱石などの文豪に近い冗長な文章なので、はじめは難しいかなと思われる方もいるようです。
ですがいつの間にか森見登美彦の文体の中毒になっていた!という人も少なくないはず。
こちらの作品にも奇妙で愉快な個性的な登場人物がたくさん出てきます。どこがファンタジーなの?と思いますが、森見登美彦らしい、ふわっとした幻想文学のテイストが現れて、いつの間にか私たちの知らない京都の街へいざなわれていく作品です。
おすすめ小説3:『ペンギンハイウェイ』
森見登美彦作品と言えば「へたれ大学生」!というくらい、むさ苦しく冴えない大学生が主人公である作品が多いんですよね。
ですがこの『ペンギンハイウェイ』はなんと小学生の少年が主人公。森見登美彦の新境地と言えるような、爽やかさのある物語です。
でもこの作品の主人公「アオヤマ君」は普通の小学生ではありません。小学校4年生なのに小難しいことばっかり考えていて、でも宇宙のこととかに興味のあるロマンあふれる大人少年です。
ある時、歯医者のお姉さんとオセロ友達になったアオヤマ少年。突然街にペンギンたちが現れて、お姉さんが不思議な力を持っていることが明らかになっていきます。
そんな謎の事件の数々を、学校の友達と追っていくこの物語。
ただの少年が主人公になっている普通の物語ではありません。読むと確実に、アオヤマ少年がとってもとっても好きになってしまうんですよね。
正直、不思議なストーリーよりもアオヤマ君の魅力と成長に心を奪われていく、そして読み終わるとお別れがちょっと寂しくなってしまうような素敵な作品なんです。
角川文庫の帯には、萩尾望都さんによる解説の一部が紹介されています。「最後のページを読んだとき、アオヤマ君とこの本を抱きしめたくなる」ペンギンたちの不思議も気になりますが、アオヤマ君とお姉さんの優しい絆にも注目です。
おすすめ小説4:『恋文の技術』
最近、本を読んで笑いましたか?
本当に読書をしながらふふって笑いたい、と思う人にはとにかく森見登美彦の『恋文の技術』をおすすめします。
笑えると言われている小説をいくつも読んできましたが、漫画を読むようにこんなにぷっと吹き出してしまうような小説は初めてです。電車の中で読みたい方は、ちょっと注意が必要ですね。
ですがこの小説、手紙で出来ています。作者の森見登美彦さんが、夏目漱石の書簡集を読んでとても面白くて、そこからインスピレーションを得て書いた書簡集的な小説です。
最初から最後まで、全てが手紙だけで出来ているんです。でも内容はタイトルにあるような、甘酸っぱそうな恋文ではありません。
京都の大学院生から遠く飛ばされた学生が、寂しさまぎれだかなんだか、文通修行と称して友人達に手紙を飛ばしまくる。
本当は恋文を書きたいのに、しょうもない手紙をたくさん送ります。そして返事を書く仲間たちの愛と愛のムチの数々。
作中に森見登美彦自身が登場するところにも注目です。森見登美彦氏は、主人公にどんな手紙を送られ、送り返すのでしょうか。
そしてやはり森見作品は笑いだけでは終わりません。心を柔らかく撫でていくような、切なさ、優しさ、愛が閉じ込められていたことに、気付かされる作品です。
読後感の良さ。体験してみて下さい。
おすすめ小説5:『有頂天家族』
森見登美彦作品の中でもシリーズ化してしまう程の人気を誇る『有頂天家族』
主人公はなんと狸です。まず設定が狸と天狗、人間がこの世を跋扈する世界。それが森見登美彦独特のお芝居の様な語り口調で目の前へ鮮やかに切り開かれて行きます。
主人公は狸といっても、普段は人間に化けていますから、私たちに近い存在として親近感がすごくわいてきます。でも一度狸に戻れば、作者からふわふわ、とか毛玉、とか表現されてしまう愛くるしい狸たち。
この狸の一家は三兄弟。そして母親。亡き父親。彼ら一族と、他の狸たち、そして天狗とのバトルが楽しめるなんとも面白おかしいドタバタ喜劇です。
愛おしくなるような個性的な登場人物(登場狸?登場天狗?)たちが大暴れします。
でも読後、『有頂天家族』の何よりも心に残る印象は、主人公狸たちの深い家族愛でしょう。心にじわっとした暖かさが広がる作品です。